僕は味と匂いに関する研究で工学博士を取得しているので、他の人より多少は味の知識がある。
この記事の最後に基本味の定義について書かれている。
基本味のリストに最終的に加えられるためには、さまざまな基準が満たされなければならない。問題の味の知覚を決定づける受容体が特定されなければならないし、識別可能で広く受け入れられる味の定義に到達する必要がある。さらに、何かしら有益な心理的反応が発見されなければならない。
いまのところ、新しい味はどれも、3つの基準を全て満たすことができていない。デンプン味は非常に認識しやすいし、エネルギーの豊富な食物を見つけるのに有益な味となる。したがって、足りないのは、この味の知覚に対する受容体だけだ。そして、今後米国の研究者たちは、これを発見することに専念するすべく計画を立てている。
基本味の定義は3つあると書かれているが、
記事の文章は英文を難解に訳しているので分かりやすく表現してみる。
1.その味特有の受容体があること
2.その味は多くの人が認識しやすく、広く受け入れられること
3.その味を判別することは生死に関係するということ
味は舌にたくさんある味蕾という小器官で感じる。味蕾には五基本味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)とそれぞれ対応する受容体がある。
受容体とは器のようなもので、例えば甘味なら甘味専用の皿が用意されてて、その皿に砂糖が載せられて甘いと感じる。
五基本味のうち旨味は日本人が発見したもので、一番最後に仲間入りした。旨味は専用の受容体があり、出汁の味として多くの人が認識できる。味の素として、精製された旨味物質が商品化され、いまや売上高一兆円を超える巨大企業にさえなっている。旨味はアミノ酸の味であり、アミノ酸は体をつくるタンパク質の素なので生命にとって必須な物質だ。
だから、旨味は基本味の定義を全て満たしていることになる。
それでは、デンプン味はどうか?
まだ受容体が見つかってないのはしょうがないが、他の2つの定義に当てはまるかどうかも怪しい。
まず、デンプン味というのを、多くの人が認識しているだろうか?
米やパンを食べた時に、唾液中のアミラーゼで分解される前の味を認識しているだろうか?
それは舌で感じているものだろうか?
もしかしたら経験上、お茶碗に盛られたほかほかご飯や、焼き立てのトーストが美味しいと感じているだけじゃないだろうか?
視覚や嗅覚といった味覚以外で味を感じていると錯覚していないだろうか?
さらに、デンプンを取る/取らないことは生死に関わる問題だろうか?
デンプンは糖の原料に過ぎない。
果物からも糖は摂取できる。
果物が豊富にあれば穀物は食べなくても生きていける。
この記事中の男性は7年間フルーツ以外食べてなくても生きている。それどころかすこぶる健康なのである。
逆に、低炭水化物ダイエットが流行っているように、デンプンというのは取りすぎると肥満や糖尿病の原因になるほどなのだ。
果たして、デンプン味は五基本味になれるのだろうか?
はなはだ疑問である。