久しぶりの東京出張。
前々から決めていたことがある。
仕事終わったら銀座に行って、
スタア・バー・ギンザでカクテルを飲む。
日本バーテンダー協会会長の岸久さんが経営するバー。
事前情報から、アイリッシュコーヒーは冬場限定とのことを聞いていたので、別のカクテルを頼もうと思ってた。
もうね。地下に降りる前からの看板がカッコよすぎですわ。
一歩踏み出すごとに写真を撮ってしまうわ!
地下に降りるのが楽しみしょうがないわ!
まだ早い時間だったので、カウンターは数人のお客さん、ソファ席は空いている。
入口に近いカウンター席をすすめられ、席に座ろうとしたらバーテンダーさんがスツールを引いてくれた。
しかも、荷物はスツールの下に置いてくれた。
カウンターは8席ほど。
木製のシンプルなカウンター。
手前の、ひじを置くところは革張りでクッションがあり、心地よくひじを立てられる。
カウンター全体の眺めも良い。
バーテンダーさんは4名。
僕の目の前にはインド系のバーテンダーさん。
流暢な日本語で接客してくれる。
適度な熱さのおしぼりを受け取る。
「ウイスキーベースのものがいいですか?」
「いえ、ウイスキーにこだわらず、いまの季節でオススメのものがあれば」
「生姜の効いたモスコミュール、あるいは日向夏のカクテルがございます」
「日向夏のカクテルはベースは何ですか?」
「ジンでございます」
「それでは、日向夏のカクテルでお願いします」
そのようにして一杯目を注文した。
しばし待つ。
じっくりとバーテンダーさんがカクテルを作る工程を観察する。
右端の、サスペンダーをつけてるバーテンダーさんがカクテルを作る。
所作は完璧。
動きに淀みなく、シェイクも的確。
ササっと作られた、非常にシンプルなカクテル。
グラスも涼やか。
一口目。
爽やか。
二口目。
うまい!
三口目。
日向夏の苦味も感じる。
四口目。
すっきりと飲み干す。
食前酒として、最高!
本当は、この一杯で、店を出ようと思ってた。
現金の持ち合わせが少ないのと、明日も仕事があるから。
でも、まだ電車の時間はある。
全然飲み足りない。
もう少し、この店の雰囲気に、酔い痴れたい。
二杯目は少し時間を置いた。
トイレに席を立った。
僕の、飲食店を評価するポイントで、トイレは重要だ。
トイレの設えで、その店のコンセプトが分かる。
ウォシュレット付きか?
内装にこだわって、落ち着く雰囲気か?
ポスターが貼ってあって、新たな情報が得られるか?
手洗いは清潔に保たれているか?
そのような、幾つかの細かいチェックポイントがある。
残念ながら、ウォシュレットは付いてなかったが、その他のポイントでは合格点か、あるいはそれ以上だった。
まず、トイレの奥の棚に置いてあるアイラモルトのボトルたち。
そして、トイレに入った瞬間から、良い香りが漂っている。
アロマのセンスも抜群だ。おそらく、男性客の比率が高いのだろうけど、僕の好みのウッディなアロマだった。
トイレに緑が豊富なところも評価できる。他の店ではないセンスだ。
手洗いスペースには花が活けてある。色彩が良い。
岸久さんご本人は不在だったけど、ポスターにご挨拶する。
トイレに大満足して、再びカウンターへ。
再度、バーテンダーさんにスツールを引いていただき、席につく。
「すみません。
ここってカードは使えますか?」
「はい。使えますよ」
安心して、二杯目を頼める。
注文する前に、しばし、バーテンダーさんたちと雑談をする。
インド人と思ってた方はネパール出身とのこと。
日本に来て5年目。
はじめからバーテンダー志望というわけではなく、人生経験の一つとして選択しているとのこと。それにしては、この日のナンバー2か3の立ち居振る舞い。素晴らしい。
スタア・バーは京都にも出店するということは知っていた。京都店を任されるバーテンダーさんだった。
しばし、京都のバーにまつわる話で盛り上がった。
頃合いをみて、二杯目を頼む。
「アイラモルトをベースにしたショートのカクテルってもらえますか?」
「すっきり系としっかり系だとどちらがいいですか?」
「しっかりがいいですけど、ベースのウイスキーは何になりますか?」
「さっぱり系だと何を使いますか?」
「そちらもタリスカーになりまして、カクテルの種類が違います」
「それでは、しっかりしたほうでお願いします」
しばし、待つ。
バーテンダーさんの所作を見守る。
冷凍庫から取り出したタリスカーを使っている。
ステアに無駄がない。美しいステアに見惚れる。
でてきたカクテルに見惚れる。
ショートグラスも美しい。
まずは香りを楽しむ。
うんうん。タリスカーだよね。
そして、一口目。
うわっ!
なんだこれ!
タリスカーをとてもまろやかにまとめあげている。
美味い!
アルコール度数は高いけど、冷たく飲めるうちに、10分ほどで飲み干す。
余韻もたまらなく美味い。
しみじみと余韻を楽しみながら、チェイサーの水を飲む。
こんな幸せがあっていいのだろうか?
小さいけれども確かな幸せを味わいながら、バーテンダーさんとの会話も楽しむ。
来月くらいにオープンするそうなので、すぐにでも行くことになりそうだ。
そんなことを話してたら、帰りの電車にちょうど良い時間になってたので、カードでチェックを済ませ、心地よい酔いで地上に出た。
地上まで、バーテンダーさんがお見送りをしてくれた。
僕が見えなくなるまで、外で立っていた。
素晴らしいおもてなしだ。
オーナーバーテンダーの岸久さんはおられなかったけど、隅々まで教育が行き届いていて、本当に素晴らしいお店だと実感した。
完璧すぎて逆に面白くないくらいだった。
次回は岸さんにお会いしたいなと思った。
そのようにして、スタア・バー・ギンザは、僕のいきつけの店となった。