スコットランド・グラスゴーに留学してウイスキーと建築について修士論文を書きたいという学生に対し、ウイスキーについて語った。
多いに語った。
スコットランドの地図を見せながら語った。
3時間ほどたっぷりと語った。
スコッチウイスキーの蒸留所は位置によって味わいが異なる。
僕が好きなラフロイグのように海岸線沿いにある蒸留所であれば、熟成中に潮の香りを吸い込み、ピートの香りと相まって薬品や海藻のような香りがする。
一方で、ザ・グレンリヴェットやグレンフィディックのように「グレン」(ゲール語で”谷の意味)が着く蒸留所は谷にある。これはウイスキーに課税された頃の名残で政府に隠れて蒸留するために谷の奥深くでひっそりとウイスキーを造っていたのだ。スペイサイドに多い「グレン」のウイスキーは森の香り、花の香り、果物の香りがする。
海のウイスキーは海と向き合い、人の暮らしと繋げている。海と人との境界線に位置する。
逆に谷のウイスキーは森と向き合い、人の暮らしと繋げている。森と人との境界線に位置する。
僕はこれを里山モデルとして解説した。
日本の里山も人間の手で里山を保全することで自然と人の境界を整えている。里山が損なわれると熊や猪が人の生活領域へ浸食し、被害が出る。
ウイスキーも同じで、自然から与えられた水や大麦麦芽、ピートなどを原料に造る。自然が損なわれないように持続可能性に注意する。ウイスキーを通して人は自然の素晴らしさを感じることができる。
そのように蒸留所の建物を見れば、その蒸留所で働く人たちの思想が分かる。海に対して、森に対してどのように向き合っているかが分かる。
そんな風に建物を観察するといいよ。ということを伝えた。
また歴史も重要である。
スコットランド各地にあるストーン・サークルが形成された旧石器時代
体中に入れ墨をしていたというピクト族
不老不死の薬としてのウイスキー
密造酒時代に偶然生まれたイノベーションである樽熟成
アイルランドからスコットランド、アメリカ・カナダや日本へのウイスキー製造の伝搬
どのような人たちがどのようにウイスキーを造っていったかが分かれば、ウイスキーの建物についても分かる。
そのようなことを語った。
とても楽しい時間だった。