この本は深い。
農学博士で静岡大の教授・稲垣栄洋氏によるエッセイ集。
29の生き物の死にざまを通して、人はなぜ生きるのか?を考えさせられる。
目次を読むだけでも惹かれる。
空が見えない最期 ー セミ
子に身を捧ぐ生涯 ー ハサミムシ
母なる川で循環していく命 ー サケ
子を想い命がけの侵入と脱出 ー アカイエカ
など、昆虫から動物、プランクトンまで様々な生き物が描かれている。
僕は特にアンテキヌスに惹かれた。
交尾に明け暮れ、死す ー アンテキヌス
オーストラリアに住む有袋類のネズミ、アンテキヌス
アンテキヌスのオスは、メスを見つけると次々と交尾を繰り返していく。
あまりに交尾ばかり続けているため、体内の男性ホルモンが高くなりすぎて体がボロボロになり、繁殖期が終わる頃には死んでしまう。
そんなアンテキヌスを稲垣氏はこう表現する。
「男」というのは生まれながらにして悲しい生き物なのだ。
しかし、アンテキヌスの男たちは、その運命を受け入れ、全うして息絶えていく。
(中略)
自分の死と引き換えに、「未来」という種を残すアンテキヌス。
「何のために生きているのか」と思い悩んでいる私たち人間に、アンテキヌスは「次の世代のために生きる」という生きることのシンプルな意味を教えてくれている、そんな気がしてならない。
男は生まれながらにして悲しい生き物。
次の世代のために生きる。
そのために僕は孤独に耐えながら、今日も生きていこうと思った。