学びと食、ときどきランニング

ウイスキーマエストロによるIdeas worth spreading

「日本式ウェルビーイング社会の実現に向けたデザインによるイノベーションの可能性」で石川善樹さんの話が面白かった

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Innovation Master Class in Kyoto

dentsukyoto.com

9月5日の午前中にキーノートスピーチがあり、招待されたので行ってきた。

 

最初に山口周さんによる10分のオープニングスピーチがあった。


皆さんにはこの問いを持って帰ってほしい。
スペースコロニーに移住する際、日本の文化遺産から、一つだけ持っていけるとしたら、いったい何を選びますか?」

過去にワークショップやった傾向、ほとんどのものが18世紀以前のものが選ばれる。

ちょっと待って。
高度経済成長でGDP伸びた。GDPのPはProduction。高度経済成長に作られたもの、いま皆さんが作っているものが選ばれない。なぜ?

例えば、新宿の雑居ビル、スワンボート、日本橋の上の首都高。

本当に必要とされるものが作られてきたか?

どんなものを作ってPを上げていくのか?

現在、Pはほとんど企業が作っている。

 

伝えたいメッセージ
「もうゴミを生み出すのはやめよう」
皆さんの仕事は顧客のゴミを売り込むことではない。

 

なぜゴミを生み出すことになったのか?
過剰に理性やサイエンスが求められた結果。
ビジネスにおける「真善美」への転換
理性=Science ⇔ 感性=Art

 

いまは正解が過剰で問題が少ない。
昭和は問題がたくさんあった。いまは生活上の不満・不安は少ない。

 

モノが過剰で意味が希少。
生きる意味、子供を持つ意味、とかが大事になってきている。
コンマリの価値は「ものを無くす」ということ。それが世界で評価されている。

 

便利さが過剰で情緒が希少。
鎌倉・葉山が人気。暖炉や薪ストーブが人気。

 

データが過剰でストーリーが希少
説得⇒共感
新しさ⇒懐かしさ
過剰なモノの価値は低下し、希少なモノの価値は向上する。

 

ガラケーiPhone
正解を求めた結果、ガラケーはどの会社も同じような形になった。

リモコンのボタン、65個もある。

 

なぜ美術系大学院にエグゼクティブを送り込むのか?
なぜMBA出願件数は減り続けているのか?⇒正解を出す市場価値が低下している
コンサル会社によるデザイン会社の買収

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基調講演はRCA(Royal College of Art)のジェレミーマイヤーソン教授による「高齢化社会におけるウェルネスのためのデザイン思考」Design Thinking for Wellness in an Ageing Society

 

どのようにしてデザイン思考をイノベーションに活かし、高齢化社会におけるウェルネスを向上させられるだろうか?

 

RCAについて、
1837年創立、政府が始めた。
Dysonビルに新しいキャンパス⇒ダイソンはRCAの卒業生。
ソニーウォークマン生みの親・盛田さんも在籍したことある。

 

3つのショートストーリー
1.1841年、ブルネル、初期の鉄道を作った人。お金を集める際に、乗客の立場に立って話をした。トンネルや橋の意義を説いた。

2.1932年、ヘンリードレイファス、ポラロイドカメラやトラクターをデザインした人。RKOという新しい映画館を作った。田舎に映画館を作った。赤いカーペットを撤去して簡素なゴムのマットを用意した。田舎の人はどろだらけの靴で入りにくかった。それを見つけて解決。

3.1993年、ジェームズ・ダイソン、製材所に行ったとき巨大なサイクロン式の機械を見た。おがくずを吸い取る装置。これを小型化してダイソンの掃除機を作った。

3つとも、デザイン思考が「人を中心としたものであること」という共通点。

 

デザイン思考はどこから来たか?
2008年、ティムブラウン、IDEO創業者

”Change by Design”

 

デザイン思考はどこまで到達できるのか?
ファイナンスや流通まで。

 

高齢化社会に目を向けてみよう
コミュニティにおける年齢のバランスが変わっていく
人との関わりこそが大事
”The Longevity Economy” by Joseph F. Coughlin


パロ(介護用コミュニケーションロボ)は30か国以上の方が使われている。
インクルーシブデザインが大事:疎外marginsから主流mainstreamへ

 

高齢者は障碍者ではない。
歳をとると機能が衰える。感覚、動き、認知
老化のモデル、医療、社会、文化

NEW OLD @ the Design Museum、ロンドン、ポーランド、台湾で開催。来年はNYで。

 

オーラパワースーツ、おばあちゃんスーツ、筋肉に刺激を与えたら連動。
https://fuseproject.com/work/superflex/aura-powered-suit/?focus=overview

www.youtube.com



高齢化社会におけるウェルネス
領域は5つ。アイデンティティ、家、繋がり、働くこと、モビリティ


アイデンティティ:定義の難しさ、均質化したグループのように語られがち。60代と90代は違う。YOYO(ヤングオールド)
香港のシニア向けファッションショー、矢沢永吉、etc.

家:
例1.Amazin Apartment、Amazin Service、居住空間と作業空間が隣り合わせ、洗濯を業者がやってくれる、買い物を業者がやってくれる
例2.駐車場を撤去して卓球台やBBQセットを置く、交流を促す
共創の課題、住民を巻き込んで課題解決
Care-Free Home System
高齢者が何を望んでいるのか?深く考えデザインする

 

コネクティビティ(繋がり):
昔のコミュニティ、たばこや、銭湯、火の用心、盆踊り、回覧板
移行の課題、退職、引っ越し、要介護、予期した/予期せず
デジタルインクルージョンの問題、デジタル黒板(ノキアと共同)、絵本で取説(サムソンと共同)

 

働くこと:
年をとっても働き続ける問題
熟練工
歓迎してくれる職場、集中し、協力し、熟考するための空間

移動性(モビリティ):
歩行を助ける靴(レーザービームを靴から照射)
たためる車いす

技術、ビジネス、消費者(People)のバランスが大事

 

ダブルダイヤモンドモデル
発散と収束を2回、課題定義と解決策

uxdaystokyo.com

 

https://www.rca.ac.uk/


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パネルディスカッション「日本式ウェルビーイング社会の実現に向けたデザインによるイノベーションの可能性
ジェレミー教授、小笠原さん、石川さん
モデレーターは山口周さん

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まずは自己紹介と教授の講演の感想を。


小笠原さん:日本って少子高齢化と言われる。少子化は日本より韓国・シンガポールとかのほうが問題。高齢化に焦点をあてて議論したほうがいい。高齢化に対しての良い課題解決とは?ハードウェアとSaaSのスタートアップに投資している。

ゴミの話。ハードウェアはゴミを作ってると思う。ゴミになるまでの価値を極限まで高める。インターフェースがデザイン。メルカリ創業者・山田進太郎が世界一周したあとに言った「ゴミを減らしたい。ゴミを減った世の中はどうなるか?」それをメルカリで実現している。

テルースという衛星のデータをオープン化するPJ、衛星というマクロなデータはコストが安い。漁業や農業といった人間が口にする領域へ展開。蓄積温度で稲の刈り入れ時期を決められる。ニンジンのベータカロチン含有量も温度で分かる。

 

石川:まず感想から。ジェレミー先生のようになりたい。60代になって、日本に呼ばれて、未来の話をしている。素晴らしい。デザインの絡みだとグッドデザイン賞の審査員もしている。シニアの人でも使えるのか?という観点を入れようと思った。


研究の話、Designing Innovation for Planet Earth
研究者が重視するのがデータ。予防医学では寿命のデータを重視。1800年の人類の平均寿命29歳、2000年は72歳。さらに80年後には少なく見積もって82歳。今後100年を見据えたときに大きな課題。こんなに寿命が延びた生物はいない。この観点からいえば大成功。だけど大成功した結果、シニアの問題が出てきた。クオリティをどうするか?が問題になってきている。日本はGDP右肩上がりで伸びた。寿命も伸びた。しかしLife Satisfactionは全然変わらない(2002年の研究成果)
世界は4つに分けられる。先進国、途上国、日本とアルゼンチンの4つ。途上国から先進国に上がった唯一の国が日本、逆に下がったのがアルゼンチン。
人生の三大不安「病気」「貧困」「孤独」をクリアした20世紀、そのシンボリックな日本でQoLが変わらないのはなぜか?これは英米中韓も同様。なぜか?
「生命の質」を人々が主観的にどうとらえているか?が21世紀の研究対象。subjective well-being(主観的ウェルビーイング


データ⇒ナレッジ⇒イノベーション
データはビッグデータ化している。どういうデータを取るのか?が研究者のセンス問われる。


ex1.目のデータ。JINSとの共同研究。JINS MEMEを使って目の動きをとらえる。目は電池のようなもの。目の表面がプラス、奥がマイナス。眼電図(EOG:ElectroOculography)
10分くらいJINS MEMEかけてたら性格分かります。ストレスレベルが分かる。1分間でどれだけまばたきしたかを測る。リラックス度も分かる。ストレスもリラックスも同時にある状態をフローと言う。強いフローと弱いフローがある。測ることでフロー領域へ導くことができる。眼鏡と物理的な環境のインタラクションでどう変化するか。

分かったこと、人間は森の音がすごい好き。朝は朝の森の音が心地いい。夜は夜。春は春。冬は冬。一定の音を流すよりも変化があるほうが心地よい。


ex2.言語のデータ。翻訳するのが難しい言葉 hard-to-translate words 
ある言葉が本の中でどれだけ使われたか?「サティ」はインドのサンスクリットの言葉。今から100年前、英語に翻訳。マインドフルネス。今この瞬間に意識を向け続ける。東洋人は時間が回っているイメージ。欧米にはない発想。1970年代、MITがセラピーを発表しヒット。そこから爆発的に広がってきた。若い人とシニアの時間間隔は違う。シニアの人のほうが「今ここ」になりやすい。
言葉を知ることで新しい発見がある。詫びさび。苔を見たときに詫びさびを感じる。詫びさびを知らなければ苔を見ても何も感じない。新しい言葉を知ることで世界が広がる。
翻訳できない言葉:詫びさび、とか。


A or B(Individualism:個人主義) ⇔ A and B(Collectivism:集合主義)/More is better(Assertive:堂々と主張する)⇔Less is more(Humble:謙虚)
日本(わびさび)と米国(ハピネス)、英国(Hygge:暮らしを楽しむ)、ミドルイースト(Sorrow:悲しみ)
コレクティブな社会はネガティブなところに注目しやすい。
インディビジュアルはポジティブに注目しやすい。
アサーティブは強み、ハンブルは弱みに注目しやすい。
日本人は桜が咲くより、散りぎわが好き。詫びさび。
国別だけでなく、加齢とともに変化していく。

 

言葉のデータからナレッジを取り出してイノベーションにつなげる。
データ⇒ナレッジ⇒イノベーション

 

山口さん:
問題を見つける。言葉を見ていく。立ち現れてないものを見いだす。
小笠原さんと石川さんの話を聞いてどう思ったジェレミー

 

ジェレミー教授:
生まれた時から高齢化を考えなければいけない。
英国がハンブルかどうかは??だけど、お二人ともデータの大切さを語った。

 

山口さん:あと10分なのでハードコアな質問を。
昭和のはじめは日本イノベーション起きてた。いろいろな要因あると思うけど、3人に聞きたい。仮説で構わないので。日本なポジティブな要素に目を向けるとしたら何か?

 

小笠原さん:停滞は雰囲気から生まれると思っている。25年前インターネットは怪しいと言われたけど、いまやECを使ったことが無い人はいないくらい普及している。徐々に雰囲気を変えていかないといけない。今の若い世代と一緒に、怖がる必要はない、ものの見方も比較ではなく個性へ。1970年にオムロン立石一真がSINIC理論で未来予想している。そんなことを忘れているくらい停滞・緊縮している。
これからの日本を変えるのはスタートアップ。スタートアップを増やして彼らの勢いで盛り上げて雰囲気を変えていきたい。

 

石川さん:日本に限らずイノベーション求められている。イノベーションは2種類ある。インクリメンタル(改善)とディスラプティブ(破壊)。メカニズムが違う。改善は大人数でやる。ディスラプティブは少人数でやる。日本が失敗したのはディスラプティブ。ディスラプティブはシニアと若者の組み合わせで起こることが多い。単純にシニアと若手が交流したらいいと思う。
昭和の頃の日本はみな若くて西洋のシニアに学んだ。今度は日本のシニアが韓国の若手と組んでサムソンが盛り上がった。グローバルでいろんな組み合わせでやるといい。

 

ジェレミー: 
非常に面白いと思った、日本の産業が立ち止まっている、幸福感が横ばいは関連がある。関連しているのは日本の働き方だと思う。働き方改革。職場の未来。日本の産業が素早くイノベーション出来てきたのは、トヨタカイゼンなどの効果。しかしIT、ナレッジワークの世界では日本は苦しんでいる。まだまだ男性中心で、フレキシブルな働き方への移行に苦しんでいる。東京オリンピックが契機になると思う。英国もロンドンオリンピックで変わった。働き方改革企業のイノベーションと個人のウェルビーイングの双方がうまく回ると思う。

 

山口さん:
GAFAは創業時の年齢は日本の新入社員と同じ。いまの日本の経営陣はもっと若者に学ぶべき。対等な立場でコラボレーションする。若手とシニア。