私が発症したのは今から6年前の39歳の時だった。
出向先から古巣の職場に戻り、やる気に満ち溢れていた。
新しい技術を海外の顧客にテストマーケティングするため、ドイツの展示会出展など何度かヨーロッパに出張した。出張先で調子に乗り、上司に怒られ、英語が上手く話せず、帰国後の報告会でも失敗し、上司に叱責され、やがて頭が働かなくなった。
自転車通勤の帰りに「車に轢かれて死にたい」と何度も思うようになった。
ある朝、身体が動かず、起き上がれなかった。
近くの精神科のクリニックへ飛び込み、助けを求めた。
うつ病と診断された。
この時は薬は服用せず、1ヶ月ほどの休養で、しっかり睡眠を取り、食事もきちんと食べ、人事のサポートもあって復帰できた。
上司との折り合いが悪かったので、別の上司の元で軽めの仕事をこなして半年ほど過ごした。
たまたま連絡を取った事業部の先輩に誘われて、社内異動制度を利用して、新商品開発の部隊へ異動することになった。
異動後、すぐに海外出張で中国とアメリカへ立て続けに行き、慣れない商品説明、言語や文化の壁、時差などもあり、帰国して1ヶ月ほど経った頃には、また死にたくなっていた。5階建社屋の屋上から飛び降りたいと思う日が1週間ほど続いた。
死にそうな顔をして仕事をしていると上司(この職場に誘ってくれた先輩)が心配してくれて産業医と面談することになった。
産業医に「死にたいと思う」ことを告げると「すぐに主治医に診断書を書いてもらって休みなさい」と言われた。
この時から抗うつ剤を飲むようになった。上司の配慮もあり、6ヶ月の休職となった。
最初の2ヶ月ほどは薬が合わず、一向に回復の気配は無かった。
薬を変えてもらい、効果は1ヶ月ほどで出てきた。
6ヶ月の休職期間を終え、職場復帰できた。
担当していた商品の状況は少し変わっていたけど、なんとか仕事をこなせた。
海外出張の規制をしながらも、新しいチャレンジにも取り組め、充実した日々を過ごした。
それから何度か組織変更や小さな異動を繰り返したが、概ね良好な状態を保てていた。
薬の量は徐々に減らせていた。寛解が近いのかもしれないと思っていた。
でも年に一回ほど、季節の変わり目などで少調子が悪くなることもあった。
月に1度の通院で、主治医へ状態を報告し、その内容はカルテに記録されていった。
何度目かの異動で上司も変わり、苦手なタイプになった時にコロナ禍でリモートワークの考え方や価値観の違いで衝突してしまい、精神的に追い詰められた。
少し復活してきた頃に、私のミスで組織に迷惑をかけることになり、懲戒すれすれの事態になり、罰則的に仕事を変えられ、役割を制限された。
ふてくされてたこともあり、新たに与えられた仕事になかなか慣れず、徐々に落ちていった。でも、睡眠と食事は気をつけていた。
これまで活発にしていたSNSへの投稿が出来なくなり、漫画アプリばかり見て過ごすようになった。休日や寝る前にはネトフリやアマプラでアニメやドラマの動画をだらだら見ていた。
また死にたくなった。
今度は緊急事態宣言下だったので、自宅にいることが多くなり、自宅で死ぬのはどうやったら出来るのかを考えた。
ねこぢるはHIDEを真似てドアノブに掛けたタオルで首を吊って自殺したんだよな。
手頃なタオルがなかったのでベルトで代用してみた。
ドアノブに引っ掛けて首を入れてみた。体重をかけるとすぐにベルトは外れてしまった。
クローゼットのハンガーを掛けるところにベルトを巻いてみた。首を入れて体重をかける。首が締まる。
7秒くらいで死ねるらしい。でも7秒は長かった。意識を失う前に理性が働いてベルトを首から外していた。
日曜日から月曜日の朝にかけて自殺する人が多いらしい。
月曜日の早朝にベルトに首を入れ体重をかける。二度とも生還した。
なんとか這いずり起きて会社へ行き、勇気を振り絞って、かつて苦手だった上司に状況を伝えた。そこから産業医の面談を経て、主治医の診察を受けた。
主治医から「双極性障害の疑いがあります」と言われた。
双極性障害は「うつ状態」と「躁状態」を繰り返す脳の病気である。
双極性障害では「躁状態」より「うつ状態」の期間が圧倒的に長く、
「うつ病」と見分けがつきにくいらしい。
うつ病の人は自殺したいと思っても気分が落ち込みすぎて、実際に行動することは稀だということ。
最後の行動の際は「躁状態」になっているらしい。
主治医から双極性障害用の薬を薦められた。
「リチウム」だった。
それを聞いた時にすぐに思い浮かんだのはHOMELAND/ホームランドだった。
双極性障害を持つが極めて有能なキャリー・マティソンはCIAに勤務し、アメリカ国内に潜入するテロリストと戦う。後にキャリーは海外支局勤務となり、さらに民間組織に転職するが、過去の任務の影はついて回りテロリストとの対決は続く。
ウィキペディアの「概要」より引用
主人公のキャリーが服用している薬が「リチウム」だった。
シーズン1では爆破テロがきっかけで「躁状態」が酷くなり強制入院させられ「リチウム」の量が増やされる。
シーズン3では信頼する上司に双極性障害について暴露され、それがきっかけとなり精神病院に入れられる。
シーズン4では敵国のスパイに「リチウム」をすり替えられ、幻覚を見て窮地に追い込まれる。
シーズン5ではテロリスト犯を探し出すため、あえて「リチウム」の服用をやめて「躁状態」となり、アイデアや考えを次々に浮かぶようにして捜査を進める。
シーズン7では敵国に囚われ「リチウム」と引き換えにCIAを裏切る証言をしろと強要されるが、拒否し続ける。7ヶ月後に解放された時は正気を失っている。
そんなキャリーが飲んでいた「リチウム」を私も飲むようになるのか。
想像して少し嬉しくなった。
私がそのようにして「リチウム」を飲み始めるまでの調子がどんどん悪くなっていった数ヶ月間で、シーズン8まで一気に観た。
夜眠れなくなった「躁状態」の時に一気に観た。
双極性障害に苦しみながらもテロ組織に立ち向かうキャリーに勇気づけられた気がする。
ファイナルシーズンの終わり方もよかった。
スパイドラマの真骨頂だった。
「リチウム」は治療量と中毒量とが近いため、定期的に血中濃度を測定し適切な治療量を決めていかないといけないらしい。
これを書いている今はまだ適切な薬の量を調整する段階であり、「躁状態」で寝付けないので久しぶりにブログを書いてみた。
うつ病や双極性障害で悩んでいる方々への一助となれば幸いである。