カンタのタンカ
「カンタ、森の向こうの八百屋さんにおつかい行ってきてー」
「はーい」
「ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎかー。今日の晩ごはんはカレーかな」カレーはカンタの大好物です。ワクワクしながら歩いてると、遠くのほうから奇妙な音が聞こえてきました。
カカカカカカ、ココココココ、カカカカカカ、ココココココ
「あれ、何の音だろう?」カンタはあたりを見回します。
すると、木の陰から一羽の鳥が飛び出してきました。
鳥はカンタの前を横切ると、すーっと鏡の中に入っていきました。
「あ、待ってー」カンタは追いかけます。
ドテッ!
鏡を通り抜けたカンタは、つまづいて転んでしまいました。
「あいたたた」
カンタが起き上がろうと前を向くと、リスがカンタの財布を持っています。
「あ、拾ってくれたんだね。ありがとう」
カンタが近寄ろうとしたら、リスは何も言わず財布を持って駆け出しました。
「待ってー。お財布返して―」カンタは追いかけます。
リスは黒い幕の中へ逃げていきます。
ドシンッ!
カンタも幕の中に入ろうとしたら、何かにぶつかってしまいました。
黒い幕だと思ったのは、大きなクマでした。お坊さんのようなケサを着ています。
よく見ると鮭の形をしています。サケのケサです。
「痛いじゃないか。おいらのおしりにぶつかってきて」
「ごめんなさい。僕の財布を持って逃げたリスを追いかけてたんだ。クマさんの股の間を通り抜けて行ったんだけど、どこに行ったか見なかった?」
「あー、あれはリスのスリだよ。向こうのほうへ逃げていったぞ。よし、一緒に探してやろう。おいらはクマのロクだ。よろしくな」
「ありがとう。クマのロクさん。ぼくはカバのカンタだよ」
カンタとロクが歩いてると、キツネがいました。
「あ、キツネさん。リスのスリを見なかった」カンタは話しかけながらキツネに近づきました。
「あー、ダメだ。そいつはキツネのネツキだ。寝つきが悪いんだ。下手に起こしたらまずいぞ」ロクが声をかけました。
カンタはロクの忠告を無視して近づきました。
ガウガウガウ!
キツネのネツキはとても悪かったようです。カンタは噛みつかれてしまいました。
「イタたたた」
「だから言ったじゃないか、バカだなー」
「バカじゃないもん、カバだもん」
再びカンタとロクが歩いてると、シカがいました。
「ねぇシカさん。リスのスリを見なかった」カンタは話しかけながらシカに近づきました。
「あー、ダメだダメだ」またロクが声をかけました。今度は何でしょう?
ロクはシカに近づいて、いきなり角をポキンと折ってしまいました。
「これはシカの菓子だ。菓子だから話しかけたって返事はしないぞ。この角がカリントウみたいでウマいんだ。ポリポリ」ロクは美味しそうに食べています。
「じゃあ僕も」カンタも角をポキンと折って口にほおばりました。
「あイタッ!角が口の中に刺さっちゃった」
「口いっぱいに、ほおばるからだろう。バカだなー」
「バカじゃないもん、カバだもん」
カカカカカカ、ココココココ、カカカカカカ、ココココココ
「あれ、またあの音がするぞ」カンタが音のするほうを見上げると、鏡に入っていったあの鳥が木をつついています。
「あなたは誰?リスのスリを見なかった?」カンタはたずねます。
「あー、ダメだダメだ!」ロクがあわてて声をかけました。今度は何でしょう?
「わたしはキツツキ。逆さから読んでもキツツキよ。だから本当のことを知っているの」
そう言ってキツツキはロクのケサを目がけて飛び立ちました。
カカッ!
キツツキの一突きでクマのロクのサケのケサは取れてしまいました。
なんということでしょう。
リスのスリはクマのロクのサケのケサの中に隠れていたのです。
「ばれちまったら仕方がない。おいらが黒幕ってわけだ。クマのロクだからな」
「今まで気づかなかったなんてバカだなー」リスのスリもバカにしています。
「バカじゃないもん、カバだもん。許せなーい!」カンタは怒って黒幕のクマロクに突進しました。
ドーン!(カバドンです。壁ドンじゃなく。)
黒幕のクマロクとリスのスリはカンタのカバドンでふっとばされました。
「ごめんよ。友達になりたかっただけなんだ。カンタが面白い反応をするんで調子に乗っちまった」クマロクは反省しています。
「わかったよ。許してあげる。友達になろうよ」とカンタ。
「まったく甘いんだから。財布も戻ったことだしそろそろ帰った方がいいんじゃない」キツツキは言います。
「じゃあおいらが案内するぜ」ロクはカンタと友達になれて上機嫌。
カンタはロクの案内で鏡までたどり着きました。
「じゃあね。バイバイ」
「また遊ぼうぜー」
「ただいまママ」
「おかえりカンタ」
「あのねママ おつかい途中の 森の中 サカサコトバで 遊んだよ」
「あら、良かったわね。カンタは短歌が上手ね」ママもうれしそう。
「ところで、お買い物は?」
「あ、忘れてたー。また行ってきまーす」