同志社大の大学院の授業を受けていた。
「NPOと行政の協働実践演習」
社会の課題を解決することを目的にしたプロジェクトチームでの活動、気づき、学びを通して協働リーダーシップの発揮スタイルを学ぶプログラムである。
「市民プロジェクトを進める上での議論の進め方とリーダーシップ」について、全15回の授業を通して得た学びを記す。
僕は、単にまっくすさんが講師になること、一般参加も自由なこと、現業と絡めれそうなこと、という些細なきっかけで参加した。
僕がやりたいことは漠然としていた。
猫に関する何かがやりたいというだけだった。
最初にチームを作るときは悩んだ。
正直、魅力的なものがなかったからだ。
僕自身のテーマは漠然としていて他の人に強く訴えるレベルではなかったし、
他の人のテーマはそもそも何が課題なのかもよくわからなかった。
いずれも本気度が伝わってこなかった。
その中で唯一キラリと光るものが「子育てママの困ったことを解消する」を掲げていた木村さんのテーマだった。
僕の他に数名が同じチームとなり、木村さんの話を聞いた。
前職で保育士や子育て支援センターで勤務していた木村さんは、保育園や幼稚園に入る前のお子さんがいるママが地域に馴染めず孤立していることを課題に思っていた。
「困ってるママの社会参加」というキーワードが何度も出てきたので、頭文字をとってチーム名は「こまさん」とした。
その後、数回にわたって「何をするか」の議論をした。こども食堂のような誰でも気軽に参加できるイベントやコミュニティを作りたいよねっていう話になって情報を集めた。
僕は、タウンキッチン代表の北池さんのお話を聞く機会があったので共有した。
いろんな情報が集まってきたけれど、僕はモヤモヤしていた。それはチームメンバーがいろんな意見を投げかけても、
「それいいですね」
という言葉で受け止めるだけで具体的な行動に移っていかなかったからだ。
特に、発案者である木村さんの態度が定まらなかった。他人の意見に流されて右往左往しているように見えた。そんな姿を見て、あまり意見を言い過ぎるのもよくないだろうと自重していた。木村さんが内省して発見することが大事だと思った。
と偉そうに言っているけど単に僕のやる気が無かったこともある。授業は20時からスタートするので仕事でヘトヘトになった頭を使うのはしんどかった。そんな僕のやる気スイッチが入ったのは最終発表まで残り3回となったときだった。
その日はいつものメンバーに加えて、初めて議論に参加した人がいた。京都移住計画の千葉さんだった。これまでの議論の変遷を木村さんに語ってもらえるように千葉さんは丁寧に問いかけ続けた。合間に参考となる事例もたくさん紹介してくれた。千葉さんのファシリテートは傍から見ていて凄く真面目で丁寧で、木村さんを安心させるものだった。
でも、千葉さんが丁寧に問いかければかけるほど僕の違和感は強くなっていった。
それは木村さんが本当に救いたいと思う人が見えてこなかったからだ。
困っているママって誰なの?本当に困っているの?
そう木村さんに問い質した。
木村さんは「私はそう思っている」を繰り返した。
本当に?
だったら聞いてみたらいいじゃないですか。
うーん。躊躇している。
なぜそこで踏みとどまるの?踏みとどまるってことは木村さんが本当に解決したいことじゃないってこと?
実際に聞いてみればいいじゃない。聞いてみたら解ることってあるよ。
そう伝えても、伝わらなかった。
授業が終わって帰り道でも千葉さんは丁寧に解きほぐしていた。
やがて、千葉さんとお別れするところに来て、千葉さんが最後に投げかけた問いに木村さんが反応した。
それは本心を語っているようだった。
ようやく解が見つかったと思えた。
あとから振り返ってみても、この回はターニングポイントだった。
いくつかの要因がある。
まず僕らのチームは木村さん以外全員男性で、お互いに遠慮し合っていた。そこに千葉さんという女性が加わることによって、木村さんが話しやすくなったと思う。
そして千葉さんの包み込むような問いかけと対比するように僕は本質を問う質問を続けた。
それは木村さんにとって痛みを伴うものだったと思う。質問を続ける僕にとっても体力を消耗するものだった。
でも、そんなお互いがすり減るような議論や対話を続けることで、ようやく本質が見えてくるということを実感した。
これは僕にとっても大きな学びだった。
それから残り3回もすんなりいったわけではないけれど、最終的には4チームの中で一番良い発表になったと思う。
木村さんが具体的な行動を起こしたことが特に素晴らしいと思った。
木村さんはターニングポイントだった回を終えてすぐにFacebookを通してアンケートをした。
そしてその投稿が17件もシェアされて回答が18件集まった。
理想は直接ヒアリングすることだけど、木村さんの思いが伝わった成果だと思う。
回答は木村さんの想定していないものも多かったけれど、そこから見えてきたこともある。
あらたなスタートを切れるきっかけになったと思う。
木村さんの思いと本当に困っているママをつなぎ、解決の糸口を紡いでいくことが、僕らのチームの役割になっていくだろう。
この授業の最終発表がゴールではない。スタートなのだ。