会場のうみあかりにつくと、キービジュアルの原画が展示してあった。
TEDxHimi2018「Outbound」 | TEDxHimi
右の瞳には椿と立山、左の瞳には現在見ているビルの夜景が描かれている。
「現在を過ごしている都市、外の世界で椿の花を見て、故郷の風景を思い出しながらも、瞳はまっすぐ前、未来を向いている」というストーリーを思い浮かべて描いたそうだ。
僕はTEDxHimiに参加するのは3回目。過去2回はいずれもオペレーションチームのスタッフとして前日からの準備や当日の案内、パーティの設営などを手伝った。
しかし今年はParticipant(一般参加者)として申し込んだ。
ただしアフターパーティの際にウイスキーを提供する準備はしてきた。
持ってきたウイスキーはアードベッグ、タリスカー、フェイマスグラウスの3本。
そして、お酢と本みりん、メープルスロップを使ってウイスキーサワーも作れるように準備してきた。
さらに、TEDxKobeでもらった升にウイスキーを入れて飲むと木の香りとのハーモニーが楽しめる。
前日の夜にスピーカーとスタッフの交流会があるというので、ウイスキーの提供を打診された。まぁ人数もそんなにいないし、量は結構持ってきたので明日の本番にはさほど影響しないだろうと、準備した。
スピーカーの方々から注文を受け、ハイボールやウイスキーサワー、ノンアルコールカクテルを提供する。
忖度まんじゅうとアードベッグの組み合わせは良い。升に入れて飲むとなお良い。
交流会は2時間ほどで終了した。
後片付けをしていると、アードベッグのボトルが見つからない。
アードベッグは今回持ってきた中で一番高いやつで、明日のパーティの時に出される氷見の寒ブリに合わせてやろうと思ってたものだった。
ようやく見つけると、ボトルの中身が3分の1ほどになっている。今日開けたばかりなのに!
僕が席を離れているうちに誰か勝手に飲みやがったな!とショックを受けつつも、スピーカーやスタッフに飲まれたのであれば本望、と心を落ち着けた。
しかし、本番に向けては少し心もとないウイスキー量となった。どこかで補充したいところだが。
スタッフ用のマニュアルがあったので明日のタイムテーブルを確認。
TEDxKobeのときは近くにスーパーがあったからブレイクの時に買いに行けたけど、氷見の場合、会場のうみあかりから一番近いコンビニでも3kmほどあるのでちょっとしんどい。
僕が交流会でウイスキーを出してる間、TEDxKyotoのメンバーは寿司屋に行っており、お土産に寿司折りを買ってきてもらった。
この寿司はめっちゃ美味かった。バランスの良いネタのチョイス。一貫ごとにストーリーを感じられる。
富山の日本酒・立山にもよく合う。
TEDxHimiファウンダーのマサさんも合流し、なんか熱く語った記憶はある。
他のスタッフ部屋にアーリータイムスが買ってきてあるというので、見たら誰も手をつけてなかったので遠慮なく拝借し、明日のウイスキーの補充用とする。助かった。
その後も2時くらいまで語らい、立山を1升半空け、泥のように眠った。
翌朝はすっきりとも言えないが、ぼちぼちと起き出し、受付へ。
今回のギフトバックの中身。
10時のオープン前にはスピーカーの方々も来て談笑してた。
僕も昨日の交流会で顔を覚えてもらってたので少し混じりながら、今日のタイムテーブルやギフトバックについて教えてあげたりした。
キービジュアルを描いた谷川さんとも話せた。アクリルガッシュで描いてるらしい。削れやすいけど繊細なタッチが表現できるとか。
僕は色鉛筆画ばっかりだけど、アクリルガッシュで描いてみようかな。
これくらいのセットなら絵の具と筆で2千円弱なので始めやすいかも。
ちなみに原画展で気に入った絵はこれ。
”かみさまのなかにいる”
自然と少女の色合いがいいよね。
エレベーター前では物販もやってた。
2年前の第一回で登壇したザックの本もある。
2年前の記憶が甦える。
What have you receive from TEDxHimi?
TEDxHimiから何を受け取った?
僕はそうザックに尋ねた。
たくさんの雪。
それからTEDxHimiチームの情熱を受け取ったよ。
ザックはそう答えた。
会場に入ると既にオープニングアクトが始まっていた。
古流(生花用鋏)の音が打楽器と詩の朗読と重なり合う。
”名付けようのない季節”と題されたステージ上の花飾り。
前日のリハーサル、花屋のフジッキーが「いい音がする!」って喜んで鋏をチョキチョキしてたのを思い出しながら、楽しむ。アードベッグと共に。
隣にいたichiさんに写真を撮ってもらった。
アードベッグと僕。
音楽とウイスキーと共にいる幸せな空間。
しかしそれを邪魔するやつがいる。
後ろの席でずっと喋ってるおばさん。ずっと喋ってる。
「少し静かにしてくれませんか?ステージに集中できません」
よっぽど言いに行こうかと思ったけど、やめた。
と同時に、6年前の記憶が甦える。
息子が4歳の頃に初めて一緒に観に行った映画「カールじいさんの空飛ぶ家」で、息子が興奮してしまい映画が始まってからずっと喋っていた。見るもの全てに興味が湧き、「あれ何?」って尋ねてくる。僕が答えると「そうなの?じゃあ⚪︎⚪︎だね」と自分なりの解釈を説明してくる。本来なら「少し静かにしようね」と注意すべきなのだろうけど、あまりにも嬉しそうに喋るので注意できなかった。
結局、前に座ってるおばさんに「坊や、少し静かに見ようね」と注意された。
僕の息子は4歳のときに、静かにステージを観るということを学んだ。
しかし今、僕の後ろの席にいるおばさんは、まだそのことを学んでいないようだ。
残念だ。
そう思いながら、僕はフジッキーの創り上げるステージに集中した。
雪の積もるなか、採取された椿の枝たち。古流でカットされる音。空間に椿の枝や葉が浮かび上がる。打楽器の音が響く。何らかの詩が唄われる。
何を表現しようとしているかは見るものに委ねられる。
やがて、フジッキーがマサさんとハグをして、花を一輪挿す。椿の中央に。
マサさんとフジッキーが一礼をする。
こぼれ落ちた椿の葉は丁寧に掃かれる。
ステージが整ったところでTEDxHimiのロゴが登場する。
TEDxではスピーカーのプレゼン以外にもTEDトークの動画を流すのがレギュレーションで決まっている。今回のTEDxHimiで最初にチョイスされた動画はこちら。
TEDxにも使われている"X"の本当の意味を知ることができた。異文化を知ることで自分を知る機会であった。
最初のスピーカーはプリティ太田さん。
前日の交流会では「俺、人見知りなんでこういう場って何話したらいいか分からないから苦手なんですよね」と言っていた。俳優としても活躍してるのに少しびっくりしたのを覚えている。
とても緊張していたようで、時おり詰まりながら自身の体験にもとづくアイデアを語る。
ミゼットプロレスのこと、世論によって出来上がったタブーのこと、それによって職を失ったこと、自分が出来ること。
探偵ナイトスクープにも登場しているので投票してみてはいかがだろう?
生まれつき人より身長が伸びない病気を患い、大人になった今でも146cmという30歳男性からの依頼。ある日、「ミゼットプロレス」という身長の低いレスラー同士が闘うプロレスを見た。小さなレスラーがリングを駆け回り、お客さんが大笑いしている様子を見て衝撃を受けたという。同じ境遇にありながら、コンプレックスを感じさせないレスラーたちの姿を見て勇気を貰った。そこで、リングに上がってミゼットレスラーに挑んでみたいという。日本に数人しかいないミゼットレスラーとの真剣勝負の一作。
次のスピーカーは川嶋舟さん。
「2番手なんで終わったら気が楽ですわー」とおっしゃっていた。
流れるようなトーク。
馬から始まり、農業と介護をキーに話が進む。
「訪問かいこ」というネーミングが良かった。
訪問かいこの循環
- 生きもの(蚕)を身近に置くことで、
「命」「生きている」「自分」に気付くことに働きかける。- 蚕に餌をやること(桑の葉採取)=すること=役割となるよう働きかける。
- 餌やりが「したいこと」に発展し、毎日の生活リズムとなるよう働きかける。
- 生活にリズムが生まれることで、意欲的な生活する気構えが生まれることを奨励する。
- できる動作、できない動作を確認しながら、お世話の範囲を少なくする(自立を促す)
- 家族や周囲が、「できる」生活行為については見守るのみでお世話をしない支援をする。
- 繭ができた感動を分かち合い、達成感をしっかり味わっていただく。
- 再度、養蚕を開始する過程(次のクールに入る)につなげていく。継続的な活動を通して有能感を抱けるよう、生産物を売るなどの考慮も行う。
午前中のセッション1が終了。
ランチは上階の展望レストランへ。
ほどよく晴れていて立山連峰も見える。(iPhoneのカメラと僕の撮影技術では再現できないけれど)
海を見れば定置網も見える。(これまたiPhoneのカメラだと、、)
ランチはお弁当。
現地の仕出し屋さんに注文したものらしい。素朴な味で美味しかった。
一緒のテーブルに座った人との談笑も進む。古くからの知り合いと今日からの知り合いと。
午後のセッション2はこのTEDトークから始まった。
ジョンハンターは2017年8月3日に氷見に来て講演をしたらしい。
マサさんがTED Summit 2016で氷見の定置網の話をしていて興味を持ってくれ、そのつながりだそうだ。
ワールドピースゲームは日本でも体験できる。
子供に世界で起こっていることを疑似体験させることができる。
素晴らしいアイデアだと思った。
子供教育つながりで、和泉誠さんのトークが始まった。
アートな保育「こどもなーと」
レッジョ・エミリア・アプローチとも通ずるものらしい。
僕は絵本作りを通して自分の子供にアートを伝えている。今、この文章を書いている横でも6歳の息子は一生懸命に段ボールをカッターで切り出して武器を作っている。
僕の中では引網さんのトークが一番印象に残った。
和菓子づくりを通して、お客さんが望むものと自分が伝えたい伝統との葛藤に悩み、生み出された創作和菓子。
その場で招き猫を創り出した。
レベルは違うけれども、僕もウイスキーの素晴らしさを伝えることをライフワークとしている。
お客さんが望むものは何か?そして僕に出来ることは何か?
常に問うている。
引網さんのお店はこちら。
八木さんの時はマイクトラブルで少し中断、その後も調子悪く、あとで撮り直ししたようだった。
ともかく、「ビハインド・ザ・コーヴ」
なぜ鯨で世界は対立するのか?
なぜ牛は食べるのに鯨は食べてはだめなの?
という素朴な疑問から始まり、
国際会議の不平等性まであぶり出した内容は新鮮な驚きだった。
セッション2が終わりショートブレイク。
コーヒーとブルーベリージェラートを受け取り、席替えして別の人と交流。
僕は後ろのほうに座り、初めましての人たちと談笑する。
ブルーベリージェラートにアードベッグをちょっと垂らすと高級なラムレーズンアイスのようになり美味しい。早速、知り合った人たちにもおすそ分けしてあげる。
Whisky worth spreading.
そのまま後ろの席でセッション3を観る。
宮沢さんはコアラのウイルスの話。
ウイルスがどれほど小さいかを100均で買ったポンポンで表現。画面に大きく映し出された細胞と比較すると確かに小さい。
学術的に大きな発見を分かりやすく表現してくれて、僕にとっては非常に感銘を受けた内容だった。でもあとで他の人に聞くと「よく分からなかった」という反応が多かった。僕はいちおう工学博士を持っていてDNAや細菌、ウイルスなんかも興味があってベースの知識が他の人より多いせいかもしれない。TEDxKobeの物理学者・肥山さんの時もそうだったが、ベースの知識に差があると、受け取り方も違うんだなぁと改めて感じた。ウイスキーもそうだけど、科学も知れば知るほど面白いんだけどなぁ。
草刈さんのトークは一転して他の人にも響いたようだ。初めてのスタンディングオベーションだった。
はっきりとした発声で、大阪弁ということもあり、上方落語を聞いているようだった。
職親プロジェクト。
カンサイ建装工業株式会社 草刈健太郎社長 - 日本財団再犯防止プロジェクト
ーー最初に雇った少年がプロジェクト第1号でした
その少年は、親の愛情を受けず、何百回も嘘をつき、ごまかして生きてきた。自分に一度も向き合って生きてきたことがないのです。うちを何度も辞めてはまた戻ってきました。戻ってきたのは5度目ですが、それでも受け入れました。これまでに7人雇い、そのうちの5人が辞めて、2人はがんばって働いてます。辞めたうちの2人は知人のところに世話をして、そこで働いています。雇った就労者が建設業に合うかわからないし、バーで働きたいといえば別の会社に頼むこともできる。職親プロジェクトも知られるようになったおかげで、100人規模の応援団ができて、どこで働こうが、働けるわけです。調理師をしたければ、店で働けるように世話をする。最後に言い訳できないくらい追い詰める。人によっては、厳しいだけではなく優しく接する(追い詰める)ことも必要である。と思っています。
最後のスピーカー、水谷さんは段ボールベッドの考案者。
第12回 なぜ災害時は段ボールベッドがいいのか | Jパックス株式会社
段ボールベッドをオープンソース化して段ボール業者ならどこでも作れるようにした。
そうすることで、どこで災害があっても避難所にすぐに段ボールベッドを提供することが出来るようになった。
最後まで話を聞いていたかったけど、そろそろ僕の出番も近いので、僕のステージへ移動することにした。
スタッフ部屋に置いていたウイスキー達を取りに戻り、アフターパーティの会場へ。
アイスペールと氷を借りて、セッティング完了。
ウイスキーサワーは豊富にあるアーリータイムスをベースに作ることにした。
事前に味をチェックする。少しぼんやりしているので配合を微調整する。
2船分ある。
アードベッグは残り一杯分となったので、最後は僕が寒ブリとともに楽しんだ。ありがとうアードベッグ。ありがとう寒ブリ。いい組み合わせだったよ。
TEDxHimiのアフターパーティは毎回盛り付けが美しい。
食チームのおかげ。
今年はスピーカーとして登壇した引網さんも和菓子を作っている。
いろんな色の餡といろんな道具。
お客さんのオーダーに合わせて作ってくれるらしい。
僕の友達はカエルをオーダーしていた。
カエルだけかと思ったら、
蓮の葉にのったカエルが出来てて「そうきたかー!」とみんなで感動した。
もう一人の友達はカボチャをオーダー。
ハロウィン風のジャックオーランタン。
だけかと思ったら、
おばけが付いてた!
僕はカバをオーダー。
紫色で作っている時点で感心し、鼻、口、ゴマの目ときて、お手てがかわいい感じに仕上がってカバ好きには堪らない作品に。これは後でウイスキーと一緒に楽しもう!
ウイスキーと餡子ってすごく合うんだよね。
それにしても引網さん、お客さんの要望に沿って、お菓子を形作り、尚且つサプライズまで加えてくれる。これまでの修行による手技の幅と、即興性のインスピレーションがうまく合わさっているのだろう。
何より引網さん自身がとても楽しそうに創っているのが印象的だった。
この光景を見れただけでもTEDxHimiに来た意味がある。
レベルは違うけれども僕もクリエイターとして精進していきたい。
Whisky worth spreading.
引網さんに刺激を受け、僕もその後はウイスキーカクテルをお客さんに合わせて作りまくった。ウイスキーサワーにハイボール、シングルモルトスコッチ、ブレンデッドスコッチ、バーボン、本みりん、お酢、メープルシロップ、炭酸水、氷。それらの組み合わせ、配合比率を微妙に変えて提供する。インスピレーション。味と匂いの知識のデータベースの活用。背景知識をアナロジーを織り交ぜながら伝える。伝われ!と思いながら一杯を作る。全てはウイスキーのために。全ては目の前のあなたのために。
パーティが終わり、後片付けをしている中、トイレに向かう途中でフジッキーと会った。「今日のステージ良かったよ。一輪挿しがセッションが進むにつれて花開いているのに気づいた時に、移ろいを感じたよ」そんな話を差し向けて、結構長い間熱く語り合った。楽しかった。熱いよフジッキー。今度チューリップの10輪挿しをしてみるよ。
TEDxHimi 2018 ”Outbound”が意味するもの、それは誰かから受け取った何かをもとに行動し、時には挫折も経験し、内省し、そして改めて外の世界に目を向けて、自分が何を出来るか、自分は何で世界に貢献できるか、そんなことを考える機会だったように思う。
TEDxHimiは今年も最高だった。
また来年も戻ってきたい。