学びと食、ときどきランニング

ウイスキーマエストロによるIdeas worth spreading

ウイスキーを熟成する時のエタノール濃度が60%だとどんなメリットがあるのか?

ウイスキーの科学」を読んでいる。

 
著者の古賀邦正氏は、サントリー中央研究所でウイスキーの貯蔵・熟成の研究に携わり、現在は東海大学の教授である。
 
書き出しからメロメロになった。
 
 
美しいものに心を動かし、おいしいものに感動することは、生活を豊かにし、人生に彩りを与えてくれる。(中略)多くの人とウイスキーの「不易(時代が移り変わっても不変のもの)」の美しさ、そして科学的な視点からみても興味が尽きないその面白さを共有することで「福」を分かち合いたい、これが本書を執筆した動機である。
 
 
もうメロメロである。読むのが楽しくなってくる。
本書の中で、最も僕が注目したのは、樽熟成についてであった。
スコッチやスコッチをお手本としているジャパニーズウイスキーでは2回蒸溜が基本で、蒸溜後のニューポットのエタノール濃度は60%である。その濃度で樽詰めされ、長期熟成される。
 
エタノール濃度が60%の時に樽の材であるオークとウイスキーがどのような関わり合いをするのか?
科学的に調査した結果がいくつか提示されていた。
どれも興味深いものだった。
 
まず、エタノール濃度を変えた時の吸光度を測定した結果、60%をピークに吸光度が高かった。これはウイスキーの特徴のひとつである琥珀色を示す着色成分が多く溶出していることの証だ。
 
同様に、不揮発成分(樽材成分のうちバニリン等の揮発しにくい物質)の溶出量もエタノール濃度60%でピークとなった。
 
これらの結果から、エタノールがオーク材の内部にもっとも深く浸透でき、かつ、エタノール溶液の親水性と疎水性のバランスがオーク材の成分を溶かすのにちょうど良い濃度が約60%ではないかと考察されている。
 
 
また、60%エタノール溶液では、主成分である水とエタノールは、体積収縮率がもっとも大きいという結果が示された。
これは、水分子とエタノール分子がもっともコンパクトに存在しているということだ。
その状態が熟成にどのように作用しているかは不明だが、水とエタノールが特別な状態にあるとは言える。
 
僕には、水とエタノールが新婚のカップルのように仲良く引っ付いてるイメージが湧いて、微笑ましく思った。
 
ともかく、エタノール濃度60%が、もっとも樽熟成に適していることが科学的に理解できた。
 
水とエタノール、オーク材との不思議な関係を想像しながら飲むウイスキーは一段と美味くなるだろう。