学びと食、ときどきランニング

ウイスキーマエストロによるIdeas worth spreading

【全11回】ウイスキーの小ネタ4「リタとマッサン」

今日のウイスキー小ネタ4は、日本のウイスキーの父・竹鶴政孝と彼を支えた妻・リタ(ジェシー・ローベルタ・カウン)の物語について紹介します。
 
2014年の朝ドラ「マッサン」のモデルとなった二人ですが、二人を繋ぎ合わせたのは一編の詩でした。
 
リタの弟に柔術を教えていた竹鶴はある日、リタに初めて声をかけられます。
「ミスター・タケツル。日本のツヅミという楽器をお持ちだとおっしゃっていましたね。いつか合奏しませんか。私はピアノでお相手させていただきます」
 
その後、3週間にわたるグレーンウイスキー工場の実習を終え、竹鶴はリタとの約束通り鼓を携えてリタの家に出向いた。
 
「さて、ところで何を合奏しましょうか」
 
二人は顔を見合せ、思わず笑いだしてしまった。考えてみれば、ピアノと鼓に共通な曲は何があるだろう。
 
「日本の音楽はあなたに無理だし、わたしは西洋音楽というのを知らんのです」
 
「それなら、スコットランド民謡ならどうかしら。ほら『今は懐かしその昔(オールド・ラング・サイン)』のような曲ならマサタカさんもご存じよ、きっと」
 
リタは竹鶴から目を離さず、指を鍵盤の上に置いた。聴き覚えのある旋律が流れた。
これならわかる。『オールド・ラング・サイン』の名をもつスコットランド民謡であることは知らなかったが、あの『蛍の光』ではないか。
 
「知っています。日本でも、よくうたわれます。悲しい、別れの曲ですね」
 
「悲しい曲ですって?いいえ、美しい曲ですが、悲しい曲ではありません。なつかしい昔を偲んで、杯を手に友と語り合おうという歌ですもの」
 
リタは、歌詞の内容を簡単に説明し、スコットランドの詩人、ロバート・バーンズの詩であることを教えてくれた。
 
夏には大学もウイスキー蒸溜所も休みとなる。竹鶴は8月に入ると、葡萄酒造りを見学するためにフランスに渡った。
 
9月末、竹鶴は一か月余りの葡萄酒研修旅行を終え、グラスゴーに戻った。フランスからはリタへの贈物として、一瓶の香水を買い求めてきた。
 
「このあいだは香水をありがとうございました。心ばかりのお礼です。お受けとりください」
リタは一冊の本を差し出した。ロバート・バーンズの詩集だった。
表紙をめくると<私の愛する詩集を日本の大切な友に捧げます>と書いてあった。
 
ロバート・バーンズの詩はスコットランド人ならだれもが一度は愛唱したことがあるほどです。いつぞやの『今は懐かしその昔(オールド・ラング・サイン)』も、あなたが学んでいるウイスキーを讃えた詩も、入っていますわ」
 
「ヒゲのウヰスキー誕生す」より
 
 
ロバート・バーンズ(1759-1796)はスコットランドの国民的詩人で、彼の誕生日である1月25日はバーンズ・ナイトと呼ばれウイスキーを飲みながら祝す日です。
 
日本では『蛍の光』として親しまれている詩が共通のものとして二人を繋ぎ合わせたというのは素敵な話だなぁと思いました。
 
あと、ロバート・バーンズの命日は私の誕生日ということが分かりました。私がウイスキーに惹かれたのも縁なのかもしれません。