村上春樹の小説に登場するウィスキーを紹介する。
第三弾は「ノルウェイの森」
1987年刊行、1991年文庫化。
村上春樹の長編5作目。
ベストセラーとなり映画化もされた作品。
21歳の頃に初めて読んだときは少し苦手意識があったけど、それから多くの生と死とSEXを経験して、再度読んでみると心のいろんなところが動かされることに気づく。
作品を通してウィスキーは死に近づいたときに登場している雰囲気がある。
直子の二十歳の誕生日を祝い、奇跡的なSEXを経て、突然の別れ、混乱する主人公・ワタナベ・トオルは肉体労働とウィスキーで気を紛らわせる。
(上巻・80頁)
僕は週に五日、運送屋で昼間働き、三日はレコード屋で夜番をやった。
そして仕事のない夜は部屋でウィスキーを飲みながら本を読んだ。
(上巻・82頁)
僕は一人で屋上に上ってウィスキーを飲み、俺はいったい何処に行こうとしているんだろうと思った。
そして直子から手紙が届いた。
次のウィスキー登場シーンは永沢さんと共に。
プレイボーイの永沢さん。ナンパをしてSEXをするのが得意な永沢さん。
しかしこの日は上手くいかない。
(上巻・149頁)
僕らは酔っ払わない程度にウィスキー・ソーダをちびちびすすりながら二時間近くそこにいた
誰とでも寝るという行為は自分をすり減らし、死に近づいている予感がする。
永沢さんのその後は書かれていなかったけど、幸福ではなかっただろう。
その後、京都の山奥で直子と会うことになり、数日を共に過ごして上巻は終わる。
下巻は直子のルームメイトのレイコさんの話からはじまる。
緑のお父さんのお見舞いに行く。キウリに海苔を巻いてポリポリと2本食べ、お父さんにも1本を食べさせてあげる。
その5日後にお父さんは亡くなる。
それ以来一週間、緑からの連絡はない。
(下巻・93頁)
僕はある夜、約束を果たすために緑のことを考えながらマスターベーションをしてみたのだったがどうもうまくいかなかった。仕方なく途中で直子に切りかえてみたのだが、直子のイメージも今回はあまり助けにならなかった。それでなんとなく馬鹿馬鹿しくなってやめてしまった。そしてウィスキーを飲んで、歯を磨いて寝た。
永沢さんは希望していた外務省の試験に受かった。
永沢さんの彼女のハツミさんと三人でちゃんとしたレストランに行って会食をしよう。就職祝いだよ。と誘われた。
やれやれ、それじゃキズキと直子のときとまったく同じじゃないか。と思いながら同席した。
話題は主に「男と女」のことだった。
(下巻・105頁)
ワインを飲んでしまうと永沢さんはもう一本注文し、自分のためにスコッチ・ウィスキーをダブルで頼んだ
直子のことが話題に出たが、僕はワインを飲んでごまかした。
(下巻・108頁)
「ほら、口が固いだろう」と三杯目のウィスキーを飲みながら永沢さんが言った。
ときどきすごく女の子と寝たくなる複雑な事情があるワタナベ。
ハツミさんはため息をつく。
メインの料理が運ばれてくる。永沢さんの前には鴨のロースト、僕とハツミさんの前には鱸の皿が置かれる。
(下巻・111頁)
永沢さんは鴨をナイフで切ってうまそうに食べ、ウィスキーを飲んだ。
僕はホウレン草を食べてみた。
ハツミさんは料理には手をつけなかった。
ハツミさんと付き合いながら誰とでも寝る永沢さんに静かに怒りをぶつけるハツミさん
「私は傷ついている」「どうして私だけじゃ足りないの?」
(下巻・113頁)
永沢さんはしばらく黙ってウィスキーのグラスを振っていた。
「真剣に話をするのは別の機会にした方が礼儀にかなっていると思うね」
それからしばらく我々は黙って食事をつづけた。僕は鱸をきれいに食べ、ハツミさんは半分残した。永沢さんはとっくに鴨を食べ終えて、まだウィスキーを飲みつづけていた。
ハツミさんはその後、永沢さんと別れ、数年後に自殺する。
緑と再会する。新宿のバーで飲む。
緑はトム・コリンズ、僕はウィスキー・ソーダを注文する。
(下巻・136頁)
お父さんが亡くなってから過ごした緑の時間について共有し、ウィスキー・ソーダの二杯目を注文し、ピスタチオを食べた。
それからポルノ映画を観て、別のバーに移り、ウィスキーを飲み、ディスコに入って踊り、ウィスキー・コークを二杯飲んだ。
緑と直子
どちらも魅力的な女性だ
レイコさんから直子が不調だという手紙が届く。
(下巻・180頁)
僕は壁にもたれてぼんやりと天井を眺め、腹が減るとそのへんにあるものをかじり、水を飲み、哀しくなるとウィスキーを飲んで眠った。
直子のことが気がかりで、緑を傷つけてしまった。
緑に手紙を書こうとしたがうまく書けなかったので、直子に手紙を書いた。
(下巻・192頁)
僕はグラスに三センチくらいウィスキーを注ぎ、それをふた口で飲んでから眠った
緑とはまだ仲直りできていない。
アルバイト先のレストランでバイト仲間の美大生・伊東と仲良くなった。
一度彼のアパートに招待された。
(下巻・196頁)
我々は彼が父親のところから黙って持ってきたシーバス・リーガルを飲み、七輪でししゃもを焼いて食べ、ロベール・カサドゥシュの弾くモーツァルトのピアノ・コンチェルトを聴いた。
(下巻・197頁)
僕らは氷を入れずにストレートでシーバスを飲み、ししゃもがなくなってしまうと、キウリとセロリを細長く切って味噌をつけてかじった。
彼はモーツァルトの素晴らしさについて物静かにしゃべった。
モーツァルトのコンチェルトを聴いていると久しぶりに安らかな気持ちになることができた。
(下巻・198頁)
僕らは三日月を眺め、シーバス・リーガルを最後の一滴まで飲んだ。美味い酒だった。
緑と仲直りして、より好きになる。
直子とは違う愛情を感じる。
レイコさんと手紙のやり取りをする。
直子が死んでしまった。
放浪の旅に出る。
(下巻・223頁)
僕は歩き疲れた体を寝袋に包んで安ウィスキーをごくごく飲んで、すぐに寝てしまった。
(下巻・224頁)
流木を集めてたき火をし、魚屋で買ってきた干魚をあぶって食べた。そしてウィスキーを飲み、波の音に耳を澄ませながら直子のことを思った。
「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」
(下巻・227頁)
僕はたった一人でその夜の波音を聴き、風邪の音に耳を澄ませながら、来る日も来る日もじっとそんなことを考えていた。ウィスキーを何本も空にし、パンをかじり、水筒の水を飲み、髪を砂だらけにしながら初秋の海岸をリュックを背負って西へ西へと歩いた。
一カ月の旅を終え、レイコさんと会うことになった。
レイコさんはギターを弾き、直子を弔った。淋しくないお葬式。「ノルウェイの森」も弾いた。
(下巻・256頁)
ワインがなくなると、我々はウィスキーを飲んだ。
五十曲めにもう一度「ノルウェイの森」を弾いた。
五十曲弾いてしまうとレイコさんは手を休め、ウィスキーを飲んだ。
これでウィスキーの記述は終わる。
この後にレイコさんとSEXすることになるのだが、読者は賛否両論あるようだ。
僕はレイコさんとのSEXは必要だったと思う。それが直子の「淋しくないお葬式」の最後にふさわしい。直子とは彼女が二十歳の誕生日にしたのが最期となった。彼女の人生でただ一度きりの奇跡のようなSEXだった。それを埋め合わせるためにもレイコさんとの性交が必要だったのだろう。レイコさんもワタナベも新たな場所へ行くために。