村上春樹の小説に登場するウィスキーを紹介する。
第二弾は「国境の南、太陽の西」
1992年に刊行、1995年に文庫化された中編小説。
なんとも言えない魅力がある作品。
なかなか他人には伝わらない。
感想は個人差があるから。
僕は受け取ったものがとても多い。
ウィスキーの記述は少ない。
主人公のハジメくんが高校の頃に交際していたイズミという彼女について、話題が出た時だった。
ハジメくんが経営しているバーに来店した、高校時代の同級生から聞いた。
高校三年生の受験シーズンに彼女を傷つけて損ねてしまった。そして自分自身も損ねてしまった。
イズミはいま、豊橋にいる。そしていまも損なわれていることを。
(104頁)
彼はあきらめたように頷いて、運ばれてきたウィスキーを一口飲んだ
(107頁)
彼はウィスキーのグラスをからからと音を立てて振った
(108頁)
彼はまた一口ウィスキーを飲んだ
(109頁)
彼はウィスキーを一口飲んで、それをそっとカウンターの上に置いた
そのようにして同級生から聞かされたイズミの話は終わった。
ハジメは同級生が帰ったあとも、カウンターで一人で酒を飲んでいた。
(111頁)
真っ暗な中でウィスキーを飲んだ。氷を出すのが面倒だったので、ストレートで飲んでいた
その後、島本さんと再会する。
小学生の頃に一緒にレコードをすり切れるほど聴いた島本さん。
ハジメと同じ「一人っこ」で、少し脚が不自由だった島本さん。
島本さんとの特別な出会いと別れを経て、物語はエピローグを迎える。
妻の有紀子はハジメの変化に気づく。
(267頁)
僕がうまく寝つけないまま台所のテーブルに座ってウィスキーを飲んでいると、彼女もグラスを持ってきて同じものを飲んだ
話しにくいことを話すときは、ウィスキーを飲みたくなる。
彼女は僕を見ていた。でも僕が何も言わないことがわかると、グラスを取ってウィスキーを一口だけ飲んだ
答えはイエスかノオかどちらかしかない。
中間は存在しない。
国境の南は存在するかもしれないが、太陽の西はたぶん存在しない。
何かが損なわれたとしても、新たな何かを選択することで別の新しい一日が始まるかもしれない。
そこにウィスキーはそっと寄り添う。