行きつけのバーが移転した。
あらゆるバーに通って、最も居心地がいいと思えるバーだった。
一人で行くべきバーだった。
寿司屋に行ってから2軒目で行くのがベストなバーだった。
8ヶ月ぶりに行ったら、移転していた。
幸い、前の場所から100mも離れてなかったのですぐに見つかった。
前の店は2階だった。
今度は路地から奥まった場所の1階。
入ってみた。
全体的に広くなっている。
カウンターが直線からL字に。
ボックス席は二つで変わらないけどゆったりしてる。
席数は1.5倍くらいになってる。
僕が入った時はボックス席が満席、カウンターに数組がいた。
僕はL字のカウンターの角に座った。
マスターは相変わらず。
置いてる酒も相変わらず。
店の雰囲気も相変わらずだった。
マスターはボックス席のカクテル作りに忙しそうだったので、ひと段落したところで注文した。
「オススメのフルーツカクテルかワインで」
「それではワインをお持ちします」
予想通りだった。
このバーで飲むワインはうまい。
今日、抜栓したばかりの赤ワインを出してくれた。
グラン・クリュクラッセ
シャトー・ボーセジュール・ベコ 2008年
ボトルで買うと8000円くらい。
めちゃめちゃ美味い!
その前に安い薄いワインを飲んでたから余計に美味い!味も香りもしっかり主張してくる僕の好きなタイプだ。
「うまいっすねー」
「ありがとうございます」
しばしワインを楽しむ。
マスターは相変わらずボックス席の対応に忙しい。
ワインが空いて、しばらく経ち、次を注文した。
「久しぶりにソサエティ飲みたいので、オススメのやつ」
「そうですねぇ、ハーフショットでもいいですか?」
「もちろん!」
ハーフショット出すということは、この店の上限価格の一杯1680円を超える貴重なウイスキーが出てくることを意味する。
ナンバー71.35。
蒸留所を聞くとファッターケアンだという。
熟成年数は27年、度数は57.2
ボトルで買うと16000円。
27年ものの割には主張してくる。アルコール感が強いが嫌じゃない。クリーミーな香り。余韻が心地よい。
やはり、いいバーだ。
しみじみと思いながら、ゆっくりとシングルモルトを飲み干す。
その間に僕以外の客がみんな帰っていった。
ほとんどの客は一杯しか飲んでないらしく、えらく勘定が安い。
「一気にいなくなりましたね」
「こんなもんですわw」
バーというものは団体でくる人ほど面倒くさい注文をする割に、高いものを頼まない。
そして長くいる。酒より会話を楽しむ。
しかし、僕のような常連客は、マスターとの会話を楽しみ、酒を楽しむ。
たいてい2、3杯は飲む。
たまにマスターにも一杯おごる。一緒にワインを飲みましょうと誘う。
1、2時間ひっそりといて、売り上げにも貢献する。
だから僕はバーには一人で行くことが多い。
終電の時間を確認し、最後にゲーリックコーヒーを注文した。
隠し味に僕の好きなラフロイグを使ってくれてた。
幸せを噛みしめながら、ゆっくりとゆっくりと飲む。
飲み干して、余韻を充分に楽しんで、会計を済ませた。
また来よう。
今度は寿司屋に寄ってから来よう。